離婚調停体験記

離婚調停体験記 第16話|婚姻費用計算で不動産収入を加えない方法を考える

投稿日:2019年6月5日 更新日:

妻が出ていって4ヶ月半

婚姻費用を決める方法について悩まされる日が続いていました。

 

私の給与年収1,000万円(自営業換算710万円)に、裁判官が言った方法での不動産所得350万円が加算されると、婚姻費用は約20万円にもなってしまいます。
こんな金額を支払い続けるのはかなりの負担です。

 

なんとか不動産収入の加算をしない方法はないか。
そう思って1週間程不眠不休で調べた結果、微かな希望が見えてきました。

 

なんと、昭和57年に東京高等裁判所が以下の判決を出していたのです。

 

婚姻費用を計算するにあたっては給与収入のみを考慮し、不動産収入は考慮しない

(東京高裁昭和57年7月26日決定、家裁月報35巻11号80頁)

 

なんということでしょう。
私と同様の悩みを持った人が遠い過去にいて、高等裁判所での判決という痕跡を残していたのです。
そして、30年以上経って私の目に留まったのでした。

 

これは、日本中の大家さん(不動産投資家)にとって、貴重な判例に違いありません!

 

素晴らしい判決です。
この判例は、私の悩みを一気に解決しそうです!

 

しかし、書籍やネットでは、判例文の一部しか記載されていません。
一部からだけでは、私の場合にこれが当てはまるかどうか分かりません。
判決文全文を読む必要があります。
裁判所のHPにはいくつかの過去の判決文が公開されていますが、この判決文は公開されていません。

 

しかも、この判決文が掲載されている判例集(家裁月報)はもう廃刊しているとのこと。
この判決文全文はもうどこにも無いのか。

 

手詰まりか…。

 

しかし、神は見放しませんでした。
さらに調べ続けると、なんと保存されている場所が見つかったのです。

 

それは、永田町の国立国会図書館!

 

たくさんの本が眠っている国立国会図書館

 

土曜日も空いているので週末に行きました。
入館証を作って、いざ入館!

 

国会図書館は人がとても多いです。
書籍を検索するパソコンが50台ほど置いてありますが、空席はほとんどありません。
判例集が保管してある場所も調べて、目的のフロアに向かいます。

 

判例集のフロアは、人がほとんどいなくて静かです。
本棚をたくさんの判例集が埋め尽くしています。

 

ここにある星の数ほどの判例は、いろんな人の過去の争いの跡なのでしょう。
誰の目にも触れないように並んでいますが、
一つ一つがすさまじい争いだったに違いない。
静かにしていると、うめき声が聞こえてきそうです…。

 

本棚を探すこと約20分。
ついに、目的の判例集がついに見つかりました!
手に取ると、本の淵はボロボロで、紙はパリパリになっています。

 

今にも崩れ落ち様とする風貌。
この判例は私に出会うために、
永い間ここで待っていてくれたに違いない。

 

慎重にページをめくると、目的の判例は全文載っていました。
書籍にもネットにも全文は載っていません。
しかし今、私はこの判決文全文を目にしています。

 

これが、私を助ける一助となれば…。

 

10ページある判例文全文をコピーしました。
さぁ、家に帰って私の事例に適用できるか分析です。

 

なるほど…。
確かに『婚姻費用を計算するにあたって、不動産収入は考慮しない』とあるが、その前提条件がありました。

 

<前提条件>
『賃料収入は、直接生計の資とはされていなかった』

 

これはヤマトの場合には完全に当てはまります。
私と妻は共働きで、お互いの給与収入から家賃や食費などを捻出していました。
不動産収入は、家計とは完全に別の口座で管理されており、家計口座との資金の移動はありません。

 

ただ、この判例での収益不動産は、相続で得た特有財産である様です。

 

――特有財産。
夫婦の一方に属する財産。結婚前に保有していた財産や、相続で得た財産が該当する。

 

ヤマトの投資用不動産のアパート3棟が特有財産になるかどうかは、正直微妙です。
頭金の半分以上は私の特有財産からですが、家庭用の貯金や妻からの資金も頭金としてなっています。
しかも、3棟とも婚姻期間中に取得しています。

 

ただ、判決文をよく読むと、
『特有財産を有していることも(中略)特段の影響を及ぼさない』との記述があります。
判決文の核となる部分はあくまで『給与収入のみで生活していた』ということです。
以上のことから、この判例は私の主張として十分使えるだろうと考えました。

 

翌日、3回目の調停に向けてK弁護士に相談に行きました。

 

K弁護士との相談内容を公開

Q1
東京高裁昭和57年7月26日の判例で、
『給与収入のみで生活していたら、不動産収入は婚姻費用算出の際に考慮しない』
という判例を見つけました。
この判例を、調停で見せるのは有りか?

A1
よくこんなの見つけましたね。
この判例を元に『不動産収入を考慮しない』と主張するのは合理的です。

Q2
婚姻費用が調停で合意できなかったらどうなる?

A2
婚姻費用を調停で合意できなければ、その後に審判で強制的に決まります。
ただ、調停を担当している裁判官がそのまま審判を担当する場合が多いので、調停で裁判官が見解を示すと双方納得する場合が多いです。

もし、調停で合意しなくても、同じ裁判官が審判を担当する場合が多く、調停で示された見解と同じ結論になることが多いからです。

Q3
妻側弁護士が不動産の詳細についての資料を求めてきたが、出す必要はあるか?

A3
婚姻費用を決めるのに必要なのは、確定申告書で十分です。
不動産の細かい資料は、財産分与を決めるときに必要ですが、今は出す必要はないでしょう。

Q4
妻側は、『私が離婚に合意しないなら、裁判したい』という強気のスタンスです。
私が次回も復縁を主張した場合、早ければ次回にでも不調になりそうです。
私は裁判はしたくないのですが、どのようなスタンスで臨むべきか?

A4
奥様が『離婚に合意できなければ裁判したい』と言っているのは、ただの脅しとしか考えられません。
こちらは裁判をイヤがっているのを悟られないようにすべき。
もし裁判しても、奥様が勝てるとは思えませんので強気で構えておくべきです。

ただ、次回はこちらから条件を聞く態度を示すのも良いかもしれません。
「条件を聞くだけ聞いてみますが」と言ってみてはどうでしょう?

もし奥様が条件について考えており、ヤマトさんが納得できる条件であれば、意外と早く決着がつく可能性もあります。
ただ、くれぐれも離婚条件をこちらから提示するのだけは止めた方が良いです。

それに、もし裁判になったとしても、ヤマトさんは状況をかなり整理されていますので後は弁護士に任せるだけで十分です。
今ご自身で調停に行っているよりも楽になると思いますよ。

 

最後に、『婚姻費用についての陳述書』をチェックしてもらいました

 

婚姻費用についての陳述書

前回○月○日の調停で婚姻費用の額の決め方についてやり取りがありましたが、下記の東京高裁での判例にある通り、私の事例における婚姻費用はお互いの給与収入だけを元に決めるべきであり、私の副業である不動産収入は婚姻費用を定めるに当たって入れるべきではないと考えております。

以下の東京高裁の判例で、「考慮すべきは主として義務者の給与収入である」としています。

※東京高裁昭和57年7月26日判例の一部抜粋(家裁月報35巻11号80項)
『申立人と相手方は、婚姻から別居に至るまでの間、(中略)、専ら相手方が勤務先から得る給与所得によって家庭生活を営み、相手方の相続財産またはこれを貸与して得た賃料収入は、直接生計の資とはされていなかったものである。

従って、相手方と別居した申立人としては、従前と同様の生活を保持することが出来れば足りると解するのが相当であるから、その婚姻費用の分担額を決定するに際し考慮すべき収入は、主として相手方の給与所得であるということになる

私と妻の共同生活において、不動産収入から生活費への補填等は一切ありません。

以上より、婚姻費用の額を定めるにあたっては、お互いの給与収入だけを考慮すべきであると考えております。

 

この時、ふと疑問が出てきました。

 

この判例を提示すれば、妻側弁護士や調停委員は素直に主張を認めてくれるだろうか。
少なくとも妻側弁護士は色々と反論してくるに違いない。
素直に受け入れるとは思わない。

 

この判例自体は、とても的を得ている。
できることなら、最も効果的な方法で示していきたい。

 

どうすれば良いか。
一度、「相手の立場になって」考えてみよう。

 

妻側弁護士の立場だったらどう思うか。

おそらく、素直に受け入れることは無いだろう。
不動産収入を給与に加算するという主張を強硬に主張してくるだろう。

 

調停委員の立場だったらどう思うか。

正直、調停委員は意見を調整する立場でしかないので、調停委員が理解を示しても決定的とは言えない。
重要なのは、調停委員が理解することではなく、妻側弁護士が受け入れるかどうかだ。

 

どうしよう。
この判例は、決定打になると思ったのに。
相手が認めなければ意味がない。

 

このとき、ふとある考えが頭をよぎりました。

 

調停に関わっているのは、私と妻(+弁護士3人)と調停委員だけではないのです。
前回登場しましたが、裁判官も関わっているのです。

 

ここで、裁判官の立場ならどう思うか…。

 

婚姻費用が調停で決着しない場合は、裁判官によって強制的に決定されます(審判)。
そのため、妻側と意見が合わなさそうであれば、審判を見据えて裁判官にしっかり主張を伝える方が有効ではないか。

 

では、この判例を裁判官に提示するだけで、裁判官は私の主張を認めてくれるか。

 

もしかしたら、認めてくれるかもしれません。
しかし、一蹴されてしまうかもしれません。

 

私が色々調べた結果、この判例以上の切り札はありません。
そのため、「もしかしたら」という可能性にかけて出すのはもったいない。
できれば、この判例をそのまま適用してもらいたたい。
どうしたらいいか…。

 

この時、またある重要な点に気付きました。

 

まさに晴天の霹靂。

 

今までで考えていたことが、ひとつのになった様な感覚でした!

 

私は、重要なことを見逃していました。
この判例は、ただの判例ではないのです!
東京高等裁判所の判例なのです。

 

ここで、高等裁判所とはどういう存在なのかを理解しなければなりません。

 

争いで裁判をすることになると、まずは家庭裁判所(家裁)や地方裁判所(地裁)で争います。
しかし、家裁や地裁は、その時の担当裁判官個人の考えが判決に色濃く反映される場合があるのです。
その結果、時として突飛的な判例が出ることがあるのです。

 

そのため法曹界の人にとって、家裁や地裁の判例は、参考にはなりますが重要度は高いとは言えません。

 

しかし、高等裁判所となると様相は全く異なります。

 

もし家裁や地裁の判決に納得しなければ、控訴して高等裁判所で争います。
高等裁判所は、全国の裁判所から選抜されたとてもバランス感覚の優れた裁判官が集まっています。
そのため、その判決は公平性が担保されており、その判決はとても威厳があるものと見なされるのです。

 

それに、離婚裁判はよほどの内容でなければ最高裁で審理されません。
したがって、離婚事件は高等裁判所での判決が、実質的に一番上級の判例になるのです。

 

法曹関係者にとって離婚事件の高等裁判所での判決は、非常に高い次元のルールとなっているのです。

 

私の切り札の判例は、
東京高等裁判所(東京高裁)での判決です。
東京家庭裁判所(東京家裁)の裁判官が無視できるはずがありません。

 

東京家裁での審判に私が納得しなかった場合、東京高裁に2週間以内に抗告することで、再度審理されます。
そうなった場合に東京高裁は、私の引用する判例は私の状況に非常に似ていることから、この判例と同じ司法判断を下す可能性は高いです。
このことは、家裁の裁判官なら直感的に分かるでしょう。

 

また、私の争いを担当するのは、東京家裁の偉い立場にある部長裁判官です。
東京家裁の部長裁判官ほどの人が、東京高裁の判例を無視するとは思えません。

審判の内容に不満があって私が東京高裁に抗告すると、
この部長裁判官は家裁で処理しきれなかっただけでなく、
東京高裁の判例を逸脱した結論を出したとして、噂になってしまうかもしれません。
今後の自身の出世にも影響してしまうかもしれません。

 

以上のことから、担当の部長裁判官はこのように考えるはずです。

 

「仮にこの東京高裁の判例を無視した審判を出したら、ヤマト氏は東京高裁に抗告するだろう。
その場合、東京高裁は34年前の判例と同じ結論を出す可能性は高い。
そうなったら、私の立場が無い。
したがって、私がこの判例から逸脱した審判を下すことは、ただ私にとってリスクになるだけだ

 

ここで重要なのは、
私がこの判例通りの結論でなければ、必ず東京高裁に抗告すると、強く印象づけることです。

 

そのため、私の主張を裁判官に強く印象付けるための方法を考えました。

 

私が減価償却の資料を出し渋ると、調停委員は資料を出すように迫ってくるでしょう。
その時、
「東京高裁の判例では不動産所得を加えないので、これ以上の資料は不要のはずだ!」
「東京家裁でどんな結論が出されても東京高裁に抗告して、この判例と同じ判決を取りに行く!」
と少し強めに主張することにしました。

 

そうすれば、最終的に調停において資料を出すことになっても、裁判官は判例通りの結論を出さざるを得ないのではないか。

 

対策は練り終えました。
『婚姻費用についての陳述書』と『東京高裁の判例』を、裁判所に送付しました。

 

さて、上手くいくかどうかは『神のみぞ知る』です。

 

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